Opus 4.8は本当に「劣化」したのか——「4.6の方が賢い」説を中立な4.7に検証させてみた
はじめに
最近、X(旧Twitter)などで「Opus 4.8 は劣化した」「むしろ 4.6 の方が賢い」といった声を見かけるようになりました。ハルシネーションが増えた、バグの混入が多い、といった具体的な不満も混じっています。
新しいバージョンのほうが古いバージョンに負ける、というのは直感に反します。普段から Claude Code を毎日のように使っている立場としては、「本当にそんなことがありえるのか?」と素直に気になりました。そこで、巷の印象論ではなく公開情報を突き合わせて、実際のところどうなのかを調べてみることにしました。
この記事は「どちらが優れているか」を白黒つけるためのものではありません。結論を先に言うと、全領域で勝つモデルはなく、タスクによって向き不向きがはっきり分かれる——つまり優劣ではなく使い分けの話だった、というのが調べてみた結論です。そして「4.6 の方が賢い」と感じている人も、決して嘘をついているわけではない、という話も後半で書きます。
なぜ、そして「どう」調べたのか
調べるにあたって、ひとつ工夫をしました。4.6 と 4.8 のどちらが優れているかを、4.6 や 4.8 自身に判定させなかったことです。
理由は単純で、当事者に「あなたは前のバージョンより優秀ですか?」と聞くのは利益相反だからです。モデルに自分自身の優劣を語らせると、どうしても自己評価が混ざります。そこで今回は、比較対象のどちらでもない中間バージョンの Opus 4.7 に、公開されているベンチマークや評判を突き合わせて整理させる、という方法を取りました。当事者ではない分、4.6 寄り・4.8 寄りのバイアスがかかりにくいだろう、という考えです。
ただし、ここは正直に断っておきます。4.7 も同じ Anthropic 製のモデルであり、完全に中立な第三者ではありません。「自社シリーズ全体を良く見せたい」方向のバイアスまでは排除できていない可能性があります。なので以下の内容は「機械的に公平な裁定」ではなく、「当事者2モデルよりはマシな立場の整理役に、公開情報をまとめさせたもの」くらいの温度感で読んでください。
なお数値は Anthropic 公式発表およびベンチマーク集計に基づくもので、私自身がベンチマークを回した一次データではありません。この点も最初に明確にしておきます。
まず結論
細かい表を見る前に、4.7 に整理させた結論を3行で示します。
- ベンチマーク上は Opus 4.8 が明確に上。比較できた共有ベンチマーク14件のうち12件で 4.8 が勝ち、特にコード関連で大きな差がついている
- 4.6 が上回るのは限定領域。具体的には「知識タスク」「Finance Agent 系の業務」「超長文(>128k)の親ノード追跡」など
- 「4.8 はハルシネーション・バグが多い」という声は事実として観測されている。ただし 4.6 にも過去にほぼ同種の不具合報告が出ていた経緯があり、それだけを根拠に「4.6 のほうが総合的に優れている」と結論づけるのは早計
要するに、「4.8 が全面的に劣化した」という話ではなく、「4.8 が大きく勝つ領域と、4.6 が部分的に勝つ領域がある」というのが事実関係でした。
ベンチマーク比較
整理させた結果を表にすると、以下のようになります。「—」や定性表記(「やや低」など)が混じっているのは、すべてのベンチマークで両モデルの直接比較できる数値が公表されているわけではないためです。比較が不完全な点も含めて、そのまま載せます。
| 領域 | ベンチマーク | Opus 4.6 | Opus 4.8 |
|---|---|---|---|
| コーディング | SWE-bench Verified | やや低 | 88.6% |
| コーディング | SWE-bench Pro | 53.4% | 69.2% |
| ターミナル操作 | Terminal-Bench 2.1 | — | 74.6%(4.7比 +8.5pt) |
| 数学 | USAMO 2026 | — | 96.7%(4.7は69.3%) |
| 難問QA | Humanity's Last Exam(w/ tools) | 低 | 57.9% |
| エージェント | Super-Agent | 未完走 | 全ケース完走 |
| ブラウザ操作 | Online-Mind2Web | — | 84% |
| 知識・幻覚率 | AA-Omniscience Hallucination Rate | 4.6 が上 | 低下 |
| 長文 | Graphwalks parents >128k | 4.6 が上 | — |
| 業務 | Finance Agent | 4.6 が上 | — |
コーディング・数学・エージェント完走率といった「手を動かして正解にたどり着く」系のベンチマークでは、4.8 がはっきり上です。特に USAMO(米国数学オリンピック予選相当)の 69.3% → 96.7% は、世代内アップデートとしては大きな伸びです。
一方で、知識・幻覚率や超長文の追跡といった「知っていることを正確に思い出す/長い文脈を取りこぼさない」系では 4.6 が上回っています。ここが今回の肝で、後述する「4.6 の方が賢いと感じる人」の正体にもつながります。
ユースケース別の使い分け
ベンチマークの勝ち負けを、実際の作業に翻訳すると次のようになります。
| あなたのタスク | 推奨 | 理由 |
|---|---|---|
| 新規コーディング・SWE 系 | 4.8 | SWE-bench Verified / Pro で大幅優位 |
| 大規模リファクタ・マイグレーション | 4.8 | 長時間タスクの持続力が効く |
| コードレビュー(欠陥検出) | 4.8 | 公式が「見落とし約 1/4」と明言 |
| 数学・難問推論 | 4.8 | USAMO 96.7% など顕著な向上 |
| 知識想起・FAQ・ハルシネーション忌避 | 4.6 | Hallucination Rate ベンチで優位 |
| Finance Agent 系業務 | 4.6 | 直接ベンチで勝利 |
| 超長文の親ノード追跡(>128k) | 4.6 | 当該ベンチで勝利 |
| 長時間自律エージェント | どちらも要レビュー | 両方で類似の失敗モード報告あり |
| 文章生成(堅実・正確さ重視) | 4.8 | 信号対雑音比が改善との評 |
| 文章生成(情緒・対話の温度感) | 4.6 | 4.8 は落ち着いた口調との評多数 |
| 安定性最優先・本番運用 | 4.6 | 枯れている分だけ挙動が読みやすい |
文章にすると長いので、判断の地図として図にしておきます。
ざっくり言えば、コードを書く・直す・レビューする・難問を解く系は 4.8、知識を正確に扱う・超長文を追う・安定運用したい系は 4.6、という分かれ方です。
実際に使い分けてみた体感
ここまでは公開情報の整理ですが、自分の手元の感触も書いておきます。厳密な対照実験ではありませんが、最近は実際のタスクで2モデルを使い分けてきました。具体的には、調査・リサーチ系のタスクは 4.6 に、コードレビューとコーディングは 4.8 に振り分けています。
面白いのは、特に上の表を見ながら意図して決めたわけではなく、使っているうちに自然とこの形に落ち着いたことです。後から表と突き合わせたら、推奨とほぼ一致していました。
体感としてはこんな感じです。
- 調査タスクを 4.6 に振る理由: 何かを調べて要約させるとき、知らないことを「それっぽく」埋めてこられるのが一番困ります。幻覚率の低さがベンチに出ている 4.6 は、調査の下調べで安心感があります
- コードレビューとコーディングを 4.8 に振る理由: 前に Opus 4.8 のリリース記事 でも書いたとおり、4.8 は「当たり前を間違えない精度」と長いタスクの持続力に効きます。実際、このブログのコードをレビューさせて同一日付の記事ソートのバグを拾えたのも 4.8 でした
もちろん、これは「私の用途ではこう分かれた」という一例です。対照実験で同一プロンプトを両者に投げて点数化したわけではないので、あくまで日常利用での体感として受け取ってください。それでも、ベンチマークが示す向き不向きと、毎日の使用感が一致したのは、表の信頼性を自分なりに確かめられた点で収穫でした。
とはいえ「調査は常に 4.6 が正解」と言い切れるかというと、そう単純でもありません。ここからは少し踏み込んだ、完全に個人的な意見を書きます。
「4.6 の方が賢い」という声は、嘘ではない
ここが今回一番書きたかったところです。
ベンチマークでは 4.8 が大きく勝っているのに、なぜ「4.6 の方が賢い」と感じる人がこれだけいるのか。私の見立てはこうです。会話を主体にモデルを使っている人は、本当にそう感じやすいのだと思います。
理由は表の下の方にあります。
- 知識想起・幻覚率で 4.6 が上回っている。雑談や質問応答のように「知っていることを正確に返す」場面では、4.6 の方が"間違いが少なく賢く見える"
- 文章生成の情緒・対話の温度感では 4.6 を推す評が多い。4.8 はより落ち着いた・堅実な口調になったと言われていて、これを「冷たくなった」「面白みが減った」と受け取る人もいる
つまり、コードを書かせるのではなく会話の相手として使っている人ほど、4.8 の強みであるコーディングや数学の伸びは体感できず、逆に 4.6 が強い知識精度や会話の温度感ばかりが目に入る。だから「劣化した」「4.6 の方が賢い」という感想になる。これは観測する角度が違うだけで、嘘でも勘違いでもありません。
「4.8 はバグが多い」という不具合報告も実在します。ただ、調べてみると 4.6 のリリース当時にもほぼ同種の劣化報告は出ていました。新バージョンが出た直後は不具合報告が目立ちやすい、という時期的なバイアスも差し引いて見る必要がありそうです。
個人的な意見:制限さえ許せば、思考力もリサーチ力も4.8寄り
ここまではできるだけ客観的に書いてきましたが、ここからは完全に主観です。
正直なところ、制限(レートリミット)に余裕がある日は、調査やリサーチも 4.8 に任せてしまうことがあります。理由は workflow オーケストレーション です。4.8 は調査タスクを複数のサブエージェントに分解して並行で走らせる使い方ができるため、制限を気にしなくていい状況なら、思考力もリサーチ力も 4.8 の方が上だと個人的には感じています。表では知識タスクを 4.6 に振りましたが、それは「幻覚率の低さ」という一点の話で、深く広く調べさせる総合力では 4.8 に分があるという実感です。
ただし、これには明確な難点があります。4.8 は消費が激しく、すぐに制限を使い切ってしまうことです。オーケストレーションで複数エージェントを回せば、当然その分だけトークンを食います。「いつでも 4.8 で全部やる」とはいかず、ここで 4.6 の出番になります。
私の今の整理はこうです。4.6 はあくまで長時間運用のためと割り切るのが得策。制限を気にせず長く回し続けたい、安定して動かし続けたいワークロードに 4.6 を充てる。逆に、短時間で深く考えさせたい・調べさせたい場面は、制限に余裕があるなら 4.8 に寄せる。知識・幻覚率のベンチで 4.6 が有利なのは事実ですが、実運用ではこの「制限とのトレードオフ」という軸が効いてくる、というのが使ってみての本音です。
結局は主観もある——自分に合うモデルでいい
ここまで使い分けの地図を描いてきて最後にこう言うのも何ですが、正直、主観的なところもあると思っています。
Fable 5 を使ってみた記事 や前述の Opus 4.8 リリース記事でも繰り返し書いてきたとおり、同世代・近い世代のモデル差を、単発の作業で人間がはっきり体感するのはそもそも難しいです。違いは「100回任せたうちの失敗が数回減った」という確率的なもので、ドラマチックに分かる種類のものではありません。
だから、会話していて自分にしっくりくる方を選ぶ、というのも十分に正当な選び方だと思います。体感でそこまで差が分かるわけではない以上、「なんとなく 4.6 の返しが好き」「4.8 の落ち着いた感じが好き」で決めても、実用上の不利益はほとんどないはずです。
ただ、もし客観的に選ぶ指標が欲しいなら、この記事の使い分けが参考になります。コードレビューや大規模なコーディング・難問推論は 4.8、ハルシネーションを絶対に避けたい知識タスクや、長く安定して回したいワークフローは 4.6。迷ったときの目安として使ってください。
なお、ハルシネーションを絶対に避けたい知識タスクや本番寄りのワークフローでは 4.6 に分があるとはいえ、こうした重要な領域はモデルが何であれ最終的に人間がレビューする原則は変わりません。「4.6 だから任せきりにできる」という話ではない点だけは押さえておきたいところです。
まとめ
- 「Opus 4.8 は劣化した/4.6 の方が賢い」という声の真偽が気になり、当事者になりにくい中間の Opus 4.7 に公開情報を整理させて調べた(4.7 も Anthropic 製で完全中立ではない点は留保)
- 事実関係は「4.8 がベンチマーク全体で明確に上、4.6 は知識・幻覚率・超長文・安定性で部分的に勝つ」。全領域で勝つモデルはなく、優劣ではなく使い分けの話だった
- コードを書く・直す・レビューする・難問を解く系は 4.8、知識を正確に扱う・超長文を追う・安定運用したい系は 4.6
- 自分でも調査は 4.6、コードレビューとコーディングは 4.8 に振り分けて使ってきたが、意図せず表の推奨とほぼ一致した
- 「4.6 の方が賢い」という声は嘘ではない。会話主体で使う人ほど、4.6 が強い知識精度と会話の温度感が目に入りやすいため、そう感じるのは自然
- 個人的には、制限に余裕があれば調査・リサーチも 4.8 が上だと感じる(workflow オーケストレーションが効くため)。ただし消費が激しいのが難点で、4.6 はあくまで長時間運用のためと割り切るのが今の整理
- 体感差はそこまで大きくないので、自分に合うモデルを選ぶのも正当。客観的に選ぶなら本記事の使い分けを目安に
そして最後に、身も蓋もないことを言って締めます。そもそも Fable 5 のような上位モデルをいつでも気軽に回せるなら、この 4.8 対 4.6 の議論自体が不要なんですよね。一段上の思考力が、両者の差をまるごと飲み込んでしまうからです。
ところが現実はもっと身も蓋もなくて、その Fable 5 が今、使えません。お試し期間がどうこう以前の話で、2026年6月、米国政府の指示により Fable 5 / Mythos 5 へのアクセスが全ユーザー向けに停止されたためです。Anthropic は公式に経緯を説明していて、政府が「Fable 5 のセーフガードを回避する手法を把握した」として国家安全保障上の権限に基づき指示した、という内容です(Anthropic 自身はこの判断に異を唱え、アクセス復旧に向けて対応するとしています)。Claude を使っている人なら大半が知っている、わりと大きな出来事でした。
というわけで、最強の切り札は当面おあずけ。結局は、手元で動く 4.8 と 4.6 を賢く使い分けるしかない——というのが、いちばん現実的なオチです。